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学長のことば

2021年度学位授与式・学長告辞

告辞
(2021年度卒業式)

この度、卒業を迎えられた学部、短期大学部の皆さん、修了を迎えられた大学院研究科、専門職大学院の皆さんには大学を代表して心からお祝いを申し上げます。皆さんはそれぞれの学生生活のなかで、多くのことを学び多くの人々と交流し、成長したことと思います。この学びと交流、成長の経験はきっとこれからの皆さんの人生において貴重な財産になるに違いありません。皆さんは2020年春以来、これまで体験したことのないコロナ禍の環境のなかにあり、出会いや交流の活動が制限され、さまざまな不安やご苦労をされたことと思います。コロナ禍の状況は、未だ収束するには至っていませんが、この経験も感染リスクの抑制、学びや仕事と感染防止の両立のためにどうしたらよいかを考え、行動するうえで、学ぶところがあったと思います。
この卒業の機会において皆さんにはぜひ振り返り確認してもらいたいことがあります。それは皆さんが在学中に何を学び、学修の成果はどうだったのか、ということです。ここでいう学修の成果は皆さんの学業成績自体のことではありません。学業成績と関連はありますが、ここでの学修成果とは、本学の各学部が設定している学修成果目標を皆さんがどの程度達成したのかということです。履修科目の成績評価については厳格な方法で実施されており、その結果の情報は皆さん一人一人がすでにご存じの通りです。しかしながら、成果目標の達成度としての学修成果の状況については、まだ学生の皆さんに十分には情報提供できていません。ただし、学修成果を図る手段のひとつとしての学生による学修成果評価については、本学は毎年度、卒業年次の学生に対して学修成果アンケート調査を実施しており、その結果を公表しています。皆さんの中にもすでに今年度のアンケートに回答した方も少なくないと思います。その回答結果もすでに公表しています。皆さんには、学部の学修成果目標を自分がどの程度達成したかを振り返る機会をぜひ持ってほしいと思います。それは自分が本学においてどのような能力を身に着けたのか、どれだけ成長したのかを自ら確認するうえで、大きな意味があります。
以下、卒業または修業を向かえる皆さんに、二つのメッセージをお伝えしたいと思います。
ひとつは、将来も自律的な学びを継続してほしいということです。現在の時代はVUCAの時代といわれます。VUCAとは変化が激しく、われわれを取り巻く環境が不確実性と複雑性が増し、曖昧で将来予測が難しいことを意味します。この現象は例えば、デジタル情報を含む科学技術、地球環境や自然災害、政治、経済、社会、教育などさまざまな領域でおいてみられ、そして最近の事例ではコロナ感染症のパンデミックであり、そしてロシア軍によるウクライナ侵攻と国際秩序の不安定化もそうです。私たち人間の知識の蓄積は学問の発展を基礎に確実に増大し、私たちの理解できる領域は大いに拡大しています。他方で、われわれがまだ知らないこと、正解がわかっていないこともたくさんあります。これからの将来の行方をこれまでの経験や考え方の単なる延長線上にあるものと想定することはできません。こうしたなかで、私たちに基本的に求められるのは、これまでの学問の知識を吸収しつつ、環境の変化に柔軟に自ら対応できるように自律的な学びを継続していくことと考えられます。それはつまり自らが学んだ専門分野分野に関わらず、学んだ知識を参考にしつつ、自ら問題を見出し、自らの頭で問題について、発生理由や性格・役割・影響等について証拠をもとづき論理的に説明し、一定の解答を導き出し対応することです。みなさんは今後も、新たなものを含めてさまざまな問題に直面するはずです。皆さんは自律的な学びをとおして、自らの能力を更に高めて問題を解決し人生を切り開いていってほしい。その意味では、今回の卒業式や修了式は、学びの終わりでは決してなく、自律的な学びの新たな始まりであること、これからもその学びは継続しなければならないことを自覚してほしいと思います。
もうひとつは、多様性を尊重し、自分と異なる価値観や考えをもつ人々や異なる領域と触れ合い、相互に交流することの重要性です。これからの人口減少する日本において経済社会水準の維持・向上を図るには新たな価値の創造やイノベーションが不可欠であり、そのためにも様々な制度改革が求められています。価値ある情報を創造するには多様性のある環境に身を置くことが必要です。情報工学の基本的考えでは、新たな情報はノイズがあるところに生まれるといわれます。ノイズとは、どうして、なぜ、おかしい、変だ、という引っ掛かりや疑問です。それは異なる要素や領域のあいだの中間、グレーゾーン、または交差するところでノイズが発生し、そのなかから価値ある情報が生まれるのです。さらに経営学のソーシャルネットワーク理論においても新たな価値を生むイノベーションは、ネットワークの中心部ではなくて周辺から生まれやすいことが明らかにされています。ネットワークの周辺とは弱いつながりながらも様々な異なる情報や要素が交わる領域です。新たな価値、イノベーションは多様性のなかから、多様な人々の対話・交流から生まれると言ってもよいでしょう。皆さんも異文化や異なる考えを持つ多様な人々と積極的に交流して、新たな価値を創出すべくイノベーティブに活躍することを期待しています。
最後に、改めて皆さんのご卒業・修了を心からお祝い申し上げて私の告辞といたします。

2022年3月23、24日
愛知大学学長  川井伸一