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所在地東京都千代田区五番町6-2 ホーマットホライゾンビル4F、5F
設立1968年(昭和43年)
代表者安永 圭佑
従業員数488人(2021年5月現在)

viewpoint 業界

 普段、私たちが当たり前のように使っている物のほとんどが製造業によって作られている。製造業とは、原材料などを加工することによって製品を生産・提供する業界のことである。
製造業は基本的にはものづくりの仕事だが、営業や商品企画など、ものづくりに直接的には携わらない仕事もある。
 製造業の中でもプラスチックを用いた製品を作る業界では、近年エコ意識の高まりにより、プラスチックの再利用や有効活用などへのニーズが高まっている。また、製造業は国内総生産(GDP)の割合がサービス業に次ぐ2位の割合を占めていて、労働総人口の約7人に1人が製造業に従事している。このことから、製造業は私達の生活を支え、密着している業界だといえる。

viewpoint 企業

 川上産業株式会社は「くうきとともだち」をスローガンとして掲げ、くうきを詰め込んだ空気の集まり「プチプチ」でモノや自然を守ることを経営理念として運営している会社である。具体的には梱包材のプチプチを始めとした輸送・配送用梱包材・包装資材の製造と販売を行う。札幌から福岡まで全国各地に営業所や工場を設置し、商品を迅速に発送できる体制を整えている。
 川上産業が営業所や工場を拡大してきた理由の一つに、「すべ受け」が挙げられる。すべ受けとはお客さんの様々な要望に全て応えることである。この背景には「天地人経営理念」という考え方が存在する。「天」は顧客、「地」は地域、環境、「人」は社員を意味しているが、この三者は全て欠かせないものとして扱う。まさに「すべ受け」は「天」の部分を重視し、現在まで継続している。
 現在、川上産業はプチプチ販売量において国内一位の約60%のシェア率を誇っている。ここまでの地位に到達するまで、様々な施策を行ってきた。その中の代表的なものが、「市場の細分化」である。これは市場対象を県単位とし、細分化された市場に集中的に経営資源を投下するというものだ。この戦略が実を結び、全国に営業所や工場を展開するきっかけになった。
 このように川上産業は「すべ受け」や「市場の細分化」を通して、顧客を獲得維持し続けてきた。

社員一人ひとりが主人公

川上産業株式会社
総務部 執行役員 総務部長
 小林 高幸 氏
総務部 主任
 渡邉 千咲 氏

健康経営のはじまり

 今回取材させて頂いたのは、小林高幸さん(左)と渡邉千咲さん(右)のお二人。主にホワイト企業としてどのような取り組みを行っているかについてお話を伺った。
 川上産業では「社員一人ひとりが主人公」という考えのもと、社員一人ひとりが能力を最大限発揮し、心身共に健康でイキイキと働くことができる会社を目指し、 「健康経営」を推進している。(「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することである。)
 この「健康経営」を川上産業で取り入れるきっかけを作ったのは、 今回取材させて頂いた渡邉さんである。 渡邉さんが社外のセミナーに参加した際、「健康経営」を推進させていくことによって会社に様々なメリットがあることを知り興味をもったと仰っていた。 そして現在は、既存の健康管理のしくみと「健康経営」を組み合わせることで、 社員の方々がより健康的に働くことのできる環境づくりを目指している。

社員を第一に考えた環境づくり

 川上産業では社員の健康を守り、働きやすい環境を整えていくために行っている取り組みがある。
 まずは健康診断。 パート社員をも含め健康診断受診率は100%を維持し続けている。また、再検査にかかる費用を負担するなど再検査の受診フォローを手厚く行っている。
 また、渡邉さんは一番力を入れていることとして社員の環境変化に対応した制度づくりを挙げていた。社員の環境変化としては大きく結婚・出産・育児・介護が挙げられる。これらの環境変化に対応した制度のうちいくつかを取り上げる。
 一つ目は、もうすぐ出産の時期を迎える方や産休・育休から職場復帰された方のための制度。出産前の不安を話す機会を設けることや、出産後のアドバイスをもらうことなどを目的とした相談窓口を設置している。
 二つ目は、育児をしながら働いている方のための制度。 勤務日にお子さんの学校行事が重なってしまったときのために学校関連休暇というものを取ることができる。
 また、子育てと両立しながら働いている方のために時短勤務制度というものがある。 法律で定められた規定では、3歳未満の子どもがいる人は時短勤務が可能となっている。 しかし、川上産業では子どもが中学校入学前の12歳まで時短勤務が可能だ。このことから、かなり条件が緩和され社員の方にとって育児のしやすい環境が整っていることがわかる。
 次は自己申告制度である。年に2回全社員を対象にシートに悩みなどを書き込んでもらい、 その後幹部の方と直接対面で面談を行う。 また提案制度というものもあり、社員の意見を取り入れるという取り組みも行われている。これらのことから、川上産業では社員一人ひとりの声が上層部まで届くという環境が整えられていることがわかる。

 このような健康経営を行ったことで、川上産業では2021年から「健康経営優良法人」に認定されている。健康経営優良法人とは地域の健康課題に即した取り組みや日本健康会議が進める健康増進の取り組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している法人を顕彰する制度だ(経済産業省ホームページ参照)。
 健康経営優良法人に認定されると「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」と社会的に評価される利点があるが、社内においてもメリットは多く存在する。そのメリットのうち、残業・労働時間について紹介する。
 まず会社側では「残業代が減る」というメリットが挙げられる。先ほども述べたように川上産業では残業時間が全国平均に比べてかなり短い。よって健康経営を進めることで多くの残業代を削減することができる。この浮いた経費で新たな事業を進めたり、健康経営に回したりすることも可能だ。
 次に社員側では労働時間が減ることにより負担が減ること、家族や趣味などプライベートの時間を大切にできることが挙げられる。この削減した時間を家族や趣味に当てられることにより、仕事とのメリハリをつけ、リフレッシュすることができる。

働きやすい環境がもたらしたこと

 このような制度を確立させ環境を整えた結果、どのような効果が得られたのかを見ていく。
 一つ目は残業時間についてである。 製造業の残業時間の全国平均は33時間。それに対して川上産業の残業時間は全国平均の三分の一以下である10時間となっているのだ。
 二つ目は産休・育休の取得率である。 女性の産休・育休の取得率は全国平均で83%となっているが、川上産業では100%。 また男性の育休取得率は全国平均が7.48%であるのに対し、川上産業では10%となっているのだ。
 その他にも離職率の低下や、復職率がほぼ100%という結果が出ている。
 このように数字でどのような成果が出ているのかを全国平均などと比較すると、川上産業が整った環境を様々な制度によって作り上げていることが見て取れる。
 このように健康経営を進めることは多くのメリットを得ることになるがその中で苦労する点や注意点がある。「公平性を確保しつつ、経営資源を投入する」ことだ。一部の社員ではなく、全ての社員が仕事をしやすくなる制度作りが必要だ。例を出すと育児・産休制度のみを整えたとしても子どもがいない社員なら、働きやすさに何も変化がないのである。このような問題を起こさないようにするために全ての従業員の状況を考え、快適な仕事環境にするための制度を制作し、資源を投入することが大切だ。

一人の社員から会社全体へ

 これまで紹介したように、川上産業では「社員の声がトップに届く」ような環境が整っている。「社員の要望が通る自己申告制度や社内アンケート」や「一人の社員から始まった健康経営」など、会社側が動くのではなく、社員が声を発し、行動できる環境をつくることがホワイト企業と呼ばれるキーポイントだと感じた。単に制度を取り入れるのではなく、実際の声を聞いて必要なものを制度化することが大切なのだ。

大きな視野と行動力

column 発見

 私たちが今回の取材で学んだことは誰かの役に立ちたい、楽しませたいという熱意である。この誰かはお客さんだけに留まらない。
 2010年8月5日にチリのサンホセ鉱山で落盤事故が発生した。この時、川上産業はチリの大使館を通して暇つぶし用に開発されたプチプチである「プッチンスカット」を発送した。作業員のメンタルヘルスを考えてのことだった。実際に商品は事故にあった作業員たちの手に届き、一時の暇つぶしになったようだ。
 このように川上産業は他企業が簡単に真似できないようなことを行うという精神を持っている。川上産業には顧客(天)・地球、環境(地)・社員(人)の三つすべてを第一に考えるという天地人経営理念があるが、その限られた幅だけでないところでも積極的に行動する。大きな視野を持ち、行動力に長けているという魅力を持った会社である。

チーム紹介

井上 結翔    (法学部2年)
安江 青祐    (経営学部2年)
小寺 遼       (地域政策学部2年)
蜂須賀 咲希 (文学部1年)

※本記事は2021年10月現在の内容となります。