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所在地東京都千代田区神田和泉町1番地
設立明治33年 (1900年)
代表者代表取締役社長 麿秀晴
従業員数連結 52,599名 (2020年3月末現在)

viewpoint 業界

 印刷業界に属する企業は名前の通り、印刷を行っている。印刷は「出版印刷」「商業印刷」「パッケージ印刷」「事務用印刷」の4種に大別され、各分野に特化し事業を展開している企業が多い。印刷業界の市場規模は2000年前後には約9兆円あったものの、近年のデジタル化推進により約3.5兆円減少している。政府のデジタル庁創設や脱ハンコといったデジタル改革が始まったことは記憶に新しい人も多いのではないだろうか。デジタル化によって紙の需要が減少する中、印刷業だけでなく他の業界にも事業展開を行っていくことが印刷会社にとって重要な鍵となるだろう。実際に、印刷業界には単なる「印刷」以外の多様な事業に携わっている企業も多い。例えば、半導体開発や医療機器の製造、建物の化粧シートに代表される内装材、電子書籍サービスなどだ。これらは一見全く関係ない業界に闇雲に進出していると感じるかもしれない。しかし半導体開発には印刷に必要な版を作る技術が応用されているなど、あらゆる分野においてこれまで印刷業界で培った技術が活かされているのである。

viewpoint 企業

 凸版印刷株式会社(以下「凸版印刷」)は1900年に印刷会社として産声を上げた。創立120年を越える歴史ある企業である。日本だけでなく海外にも多数の拠点を持つ、世界で活躍している企業である。
 凸版印刷は現在、広告やポスターだけでなくマーケティングの提供や半導体、食品パッケージの製造など幅広い分野に事業を展開している。なぜここまで多岐にわたって事業を展開しているのか。この謎をひもとく鍵は凸版印刷の歴史にある。凸版印刷は戦前、大量生産大量消費の社会的風潮にあわせて書物の大量発行を行い、戦時中は国債の発行を行った。また戦後は高度経済成長期にあわせ耐久材のカタログやスーパーマーケットのチラシを印刷するなど消費者に直接関わる商品を生産、販売していた。時代ごとに社会の動向に合わせた商材を生産販売した結果、現在のように多様な商材を扱う大企業になったのだ。
 凸版印刷の武器は商材の幅広さだ。ある分野ではそれを専門としている企業に劣るが、他の商材を組み合わせることで、凸版印刷にしかできない付加価値を生み出している。
最近は新たに、医療機器の分野に進出したと日刊工業新聞が報じている。凸版印刷はこれからもその時代の今に寄り添う商材を提供する企業として発展して行くだろう。


OBOG

凸版印刷株式会社
営業本部 第二部第一課
廣田 雪乃 氏
2017年度 法学部 卒業



想いをカタチに

 廣田さんが働いている営業本部は、お客さまを訪問し、課題を解決できるよう商材を提案・提供する部門だ。商材に対する知識やお客さまの課題をくみ取ることが仕事に大きくかかわってくる。廣田さんは、商材の数が多く多様な分、インプットが大変だとおっしゃっていた。自分が分からない部分はお客さまに説明できないため、お客さまを訪問する前に資料を読み込んだり、その商材に詳しい担当者にわからない点を聞いたりして事前に勉強しているそうだ。廣田さんがお客さまを訪問する際に、少しずつ商材を紹介していたことでお客さまのほうから「こんな商材はないの」と求めてもらうことができ、今の案件につながったというエピソードを教えてくれた。お客さまに積極的に声をかけ、色々な商材があることを知っていただく。こうした努力の積み重ねが「印刷だけの会社」というイメージを変え、商機の獲得につながった。また、お客さまと対話を重ね、満足してもらえた時、廣田さんはやりがいを感じるそうだ。お客さまに満足してもらうには、わからないことをそのままにせず、確かな知識を蓄えた上で、コミュニケーションをとることが大切だと廣田さんは教えてくれた。

お客さまのニーズに少しでも応えるために

 廣田さんは少しでもお客さまのニーズに応えるため、いくつか心掛けていることがあるそうだ。中でもお客さまを訪問し情報を提供・獲得することが大切だという。新型コロナウイルス流行によって難しくなっているが、可能な限り足を運び、相手の表情を直接見ることが大切だとおっしゃっていた。お客さまとコミュニケーションをとる際には、仕事とは関係のない話や表情などで話しやすい雰囲気づくりを意識しているという。
 この廣田さんの心がけには、彼女自身の入社一年目の経験がある。担当していたお客さまに別の企業を選択されてしまったそうだ。お客さまにあまり情報を開示していただけなかったため、凸版印刷が提供する商材がお客さまの求めているものに合っているかわからなかったという。一年目ということもあり経験不足だった、ともおっしゃっていた。
 現在、再びそのお客さまとの仕事が動き出しているという。今は始めの段階でまだ以前との違いは分からないそうだが、知識と経験を活かし、できるだけ自身が情報開示をすることで相手の情報を引き出すようにするとおっしゃっていた。相手に情報を求めるばかりでなく自身からも情報を開示するとおっしゃっていたところに、お客さまに寄り添うことへの強い意志を感じた。

連携プレー

 廣田さんが入社して初めて担当したのは、大学と広告代理店との仕事だった。学生証や冊子などを制作したという。初めは印刷の行程ひとつとっても分からないことが多く不安だったが、先輩だけでなく営業課全体のフォローもありやりきることができたという。(凸版印刷では新人教育の一環として入社一年目の社員に「ブラザー」「シスター」と呼ばれる先輩がつく。)
 廣田さんが仕事をやり遂げるために心掛けている三つのポイントを伺った。
① 分からないことをそのままにせず突き詰め、クリアにする
② お客さまに届くまでの流れを理解し、全体を見る
③ リスクやミスを予測する
特に③の『リスクやミスを予測する』という心がけにおいては生産ラインとの密なやり取りが大切であるとおっしゃっていた。商品のデザインだけでなく、梱包で商品が曲がらないかなど細部まで確認するそうだ。実際に廣田さんは制作の2か月間、何度も工場とやり取りをしたという。
 困難に直面した時に課全体でフォローしてくれるというお話を聞き、なんて頼もしい職場なのだろうと思った。また、リスクやミスを予測・回避するために工場と密に連絡を取るというお話からも、凸版印刷の人と人との連携力の強さや、廣田さん自身もその連携を大切にしていることを感じた。

良い社内雰囲気が良い福利厚生を作る

 「福利厚生」とは、賃金といった基本的労働条件とは別に、企業が従業員やその家族の暮らしの支えの一部として用意するものだ。近年、新卒で就職活動する学生は、給与だけでなく福利厚生の充実度にも注目するようになっている。就職する会社選択にあたって、福利厚生は重要視されている。
 凸版印刷は、産休や育休の取得率が高く、その取得率は女性の方が男性より高く期間も長い。しかし近年、男性の育休の取得率も高くなっているという。廣田さんに産休と育休などを取得時の職場の雰囲気を聞いたところ、元々社内の雰囲気が良いため、無理なく取得をすることが出来るそうだ。また、その後の職場復帰も、上司と十分な相談をした上で個人にあった働き方で復帰することができるそうだ。
このような社内の雰囲気の良さは凸版印刷が人材を「人財」として表記するほど大切にしていることからも見受けられる。
廣田さんの話を聞いて、社内の雰囲気が福利厚生につながり、その福利厚生がまた職員たちの仕事の効率を上げることに繋がると感じた。また、凸版印刷の良い社内雰囲気が良い福利厚生を実践できるようにしたと感じ、雰囲気の良い環境で働くことが良い循環を生み出していることを知った。

変化に前向きな企業

column 発見

 凸版印刷は、世の中に先行し、変化に柔軟に対応する企業だ。そう考える理由は2つある。
 1つ目は新型コロナウイルス流行以前のテレワーク試験運用だ。今日、テレワークが注目されるようになったが、テレワークが一般的ではない時から新たな働き方として取り入れていたことは、将来を見据えていたといえるだろう。
 2つ目は多様な事業展開だ。前述のように凸版印刷の事業の幅広さは、印刷技術を応用し多角化した結果である。この多様な事業が、ペーパーレスが推進され印刷業界の未来が危ぶまれる中、凸版印刷が今後も社会を支え続けていくことを示している。
 取材を通して、凸版印刷が世の中に先行し、変化に対しても前向きかつ柔軟に対応する企業であるということがわかった。そしてこの凸版印刷を支えているのは、廣田さんのようなお客さまに寄り添い積極的に行動することができる人財であるといえる。印刷という枠組みにとらわれず、新たな価値を提供していく会社がこの凸版印刷株式会社なのだ。


チーム紹介

金 茶慧  (現代中国学部1年)
大西 ゆきの(経営学部1年)
後藤 優華 (国際コミュニケーション学部1年)
堤 柚葉   (経営学部1年)

※本記事は2020年12月現在の内容となります。