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所在地愛知県名古屋市中区栄二丁目4番18号
設立1669年(寛文9年)
(金山祭(通称ふいご祭)が行われる11月8日を創立記念日としている。)
代表者取締役社長 岡谷 篤一
従業員数連結:5,079名 単体:684名 (2019年2月期現在)

viewpoint 業界

 私たちが普段の生活で利用しているものは、私たちのすぐ近くで作られているわけではない。世界中のいたるところで作られたものが、私たち消費者のもとへ届くのだ。そしてその過程ではなくてはならない存在が「商社」である。商社とは、製造業者が小売業者に商品を渡す流れの中で原材料の調達や企業の仲介、さらには事業投資といった広範なサービスを行う企業のことである。
 商社には大きく分けて二つの種類がある。消しゴム・鉛筆などの身近なものから、ミサイル・飛行機部品といった幅広い分野で商品を取り扱う「総合商社」と、医療特化、鉄鋼特化といった、特定の分野で商品を取り扱う「専門商社」の二種類がある。
 また昨今のグローバル化に伴い、世界規模で市場が拡大する中で、商社に必要とされる役割も増えている。特に「ものつくり」というカテゴリでは、総合・専門にかかわらず発展を遂げている。今回取材させていただいた「岡谷鋼機株式会社」もその例に漏れず、著しい変化がみられた。 

viewpoint 企業

 岡谷鋼機株式会社は創業から350年の歴史をもつ、独立系商社である。1669年、名古屋に「笹屋」という金物屋を開業し、今日に至るまで事業を拡大している。今では、鉄鋼製品や特殊鋼といった鉄鋼事業を中心に、電子部品、電子機器を扱う情報・電機分野、機械や化成品を扱う産業資材分野、建設関係の資材や食品を扱う生活産業分野の三つを加えた、合計四つの事業分野で商社の活動をしている。
 また、国内の取引先との根強い信頼関係を地盤に、海外にも活動拠点を増やしており、内需だけではなく外需の拡大にも力を入れている。企業理念である、国境を越えて企業と企業、人と人とをつなぐ「グローバル最適調達パートナー」にふさわしい経営方針といえる。
 長い歴史をもつその背景には、岡谷鋼機株式会社の「今」を大事にする考えがある。江戸、明治、大正、昭和、平成、令和と、それぞれの時代に合わせたやり方で、日々進化していく岡谷鋼機のこれからに目が離せない。

変わりゆく時代の中で

岡谷鋼機株式会社 
高峰逸輝 氏
名古屋本店 名古屋メカトロ部 マテリアル室
2012年度 現代中国学部 卒業

点と点をつなぐ仕事

 本学OBの高峰逸輝さん(以下「高峰さん」)は現在、四つある事業分野のうち、産業資材分野管轄のメカトロ部門に勤めている。「商社の仕事」と聞くと、製造業者から小売業者へ商品を受け渡す業務を思い浮かべる人も多いだろう。しかしそれだけではなく、「商社に勤める社員一人一人が持っている知識をつなぎ合わせて、新たなビジネスを提案することも、仕事の一つだ」と高峰さんは語った。
岡谷鋼機株式会社は2018年、高峰さんのアイディアにより二つの東証一部上場企業の仲介をし、業界初の商品を生み出す案件に携わった。当時、二社は全く関わりがなかったが、それぞれが持つ技術を知っていた高峰さんは、それらの技術を組み合わせることができるのではないかと考え、両社に訴えた。そしてそのアイディアが採用され、今までになかった新しい知能化技術を持つ加工装置を作ることに繋がった。商社の仕事をしていく中で、鉄鋼業界、製造業界、金融業界など幅広い業界のお客様の話を聞くことができ、それぞれの業界、企業に関する知識を身につけることができるのも、商社の仕事ならではの特徴だそうだ。「企業からの提案を受けるだけではなく、自ら能動的に新たな仕事を見つけ、それが実際に商品化した時、とてもやりがいを感じる」と高峰さんは語った。しかし、それを打ち砕くような厳しさがビジネスの世界にはある。世に出ることもなく終わってしまったアイディアや案件などもあり、悔しい思いをすることも多いそうだ。
取材をする前、商社の仕事とは、クライアントに頼まれたものを渡すために、企業を紹介すること以外には特にないと思っていたが、新しいビジネスチャンスがないか探し、考えるという創意工夫をすることも仕事の一つであるという、商社の新しい一面を発見することができた。

目標を持ち続けて努力をする

 企業が求める具体的な人物像を訪ねた時、高峰さんは「目標を持ち続けて努力する人」だと話した。会社のホームページには、「ものつくりに貢献する感性豊かなグローバル最適調達パートナー」を企業理念として掲げているが、これは始めからそういう人物を求めているわけではなく、そういう人物になれるように日々努力を続けることができる人を求めているのではないか、と高峰さんは考えていた。
実際に岡谷鋼機株式会社は、社員に対して自己啓発の講座を推奨している。語学研修や、新入社員向けの講座、管理職向けの講座、経営戦略の基礎を学ぶ講座など、会社の内外を問わず行われる。講座の費用の一部を会社が負担してくれるということもあり、受講する社員も多い。高峰さんの通う講座の参加者は、幅広い年齢層で、働いている業界も多岐にわたるため、より刺激を受けられるそうだ。入社したら終わりではなく、入社した後も成長するため、常に目標を持ち、それを達成したらまた次の目標を設定する。これができる人こそ、「ものつくりに貢献する感性豊かなグローバル最適調達パートナー」に近づくことができるのではないかと高峰さんは語った。
 では、学生時代に何をすればよいのか。それは「常に目的意識をもって何事にも取り組むこと」だという。ただなんとなくバイトをしたり、単位を取るためだけに勉強をしたりするのは時間がもったいない。バイトや勉強、どちらにしても得られるものは何か、自分はなぜやるのか、と自問自答し、目的を持つ。そうして全てを終えたときに、自分は何を得られたのかと、振り返る。当たり前かもしれないが、それらの意識を学生である今のうちに培うことが、社会で働くうえで大切なのだと、話を伺って感じた。

受け継がれる信頼関係

 『三現主義』という言葉がある。これは「現場」、「現物」、「現人」、の三つの「現」を象徴したもので、実際に現場に赴き、商品の現物を観察し、周囲の現実を認識したうえで物事を進めなければならない、という考え方のことである。高峰さんは、岡谷鋼機に勤める最中に先輩から学び、仕事をする際はこのことに気を付けて商談を進めるそうだ。これは、商社の仕事だけではなくどんな仕事にもいえることだと言う。クライアントの要望に応えるために顔を合わせ、自分の目で視て耳で聴く、謙虚で前向きな姿勢を維持すること。時代が絶えず変わっていく中で、この「三現主義」というやり方は変えず貫き通すことで、地域に根差した信頼関係が生まれるのだと、高峰さんは言う。長い歴史の中で、厚い信頼関係を築いてきたからこそ、今の岡谷鋼機があるのかもしれない。

堅実さの中にある柔軟性

column 発見

 岡谷鋼機株式会社は、近年の「働き方」に変化の風を感じ、時差勤務や時間給制、フレックスタイム制などの新たな勤務形態を導入している。さらに毎週水曜日と金曜日は、ノー残業デーとして、会社の定時である9時から17時までで就業を終えるよう社員に推奨している。時差勤務とは、30分単位で定時を変更できるというもので、高峰さんも実際に「9時30分から17時30分まで」というふうに勤務時間を変更されている。さらに、時間単位有休の導入により、金曜日の午後は早めに仕事を終え、週末の二日も使い旅行に出かけるなど、自分のライフスタイルに合わせた自由な働き方ができるのだという。
 時代に合わせるという柔軟な考えは、働き方にまで表れていた。長い歴史を持つ会社であるため、昔から守ってきたやり方もあるが、より良い職場をつくるためには改善を重ねる。これからも岡谷鋼機株式会社は、堅実さと柔軟性を持ち合わせつつ、進化していくのだろう。


チーム紹介

赤松 龍之介(経営学部 1 年)
石川 絵梨(経済学部 2年)
禰宜田 駆(経営学部 1年)
新美 峻也(経済学部 1年)

※本記事は2019年12月現在の内容となります。