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愛知大学低年次キャリアデザインプログラム「OB・OG探訪記」
名古屋税関
社会の平和と安全を守る、日本の玄関口
所在地愛知県名古屋市港区入船2-3-12
代表者名古屋税関長 秋田潤(2019年12月9日現在)
従業員数約970名(2019年11月14日現在)

viewpoint 業界

 公務員は簡単に説明すると、公務に携わっている人たちのことだ。その仕事は、営利を目的とせず、安全かつ平和であり、人々が幸せであると感じるような生活を創り出し、支えることである。ここが民間企業と最も異なる点であり、官公庁の特色でもある。民間企業では、会社や自己利益を追求することを目的としている。一方公務員は広く国民に対し平等に活動することを目的としている。福利厚生がしっかりしているなどの理由で学生からは就職先として長年根強い人気を誇っているが、その業務は決して楽なものではない。より良い社会にするという信念を抱き、日々業務を行っているのだ。

viewpoint 官公庁

 税関とは、日本と外国を移動する「物」に関する国の役所であり、 業務は「税」に関する仕事と「関所」に関する仕事の二つに大きく分かれる。具体的には、「税」に関する仕事は輸入貨物にかかる税金の徴収、輸出入貨物の審査や検査である。「関所」に関する仕事は麻薬や拳銃といった違法物品の取締まりを行うことである。これらの任務を遂行するために、税関では「安全・安心な社会の実現」、「適正かつ公平な関税等の徴収」、「貿易の円滑化」といった三つの使命を掲げている。
国際化が進み、近年、人と物の移動が著しく増加している中、日本でも脱税、麻薬や拳銃といった違法物品の持ち込み、偽ブランド品等の流入が増えてきている。税関は空港そして港といった、国の玄関口でこれらを取締まり、社会の安全を守っている。


国の安全に携わる職員

岩田 望恵 氏
中部空港税関支署 統括監視官 (検査部門担当)付 監視官

水野 秀哉 氏
中部空港税関支署 統括監視官 (旅具取締部門担当)付


社会の安全を守る責任と使命

 今回私たちは、名古屋税関中部空港税関支署の旅具取締部門に所属している水野秀哉氏(以下、水野氏)にお話を伺った。
旅具取締部門では、航空機を利用して出入国する旅客の手荷物検査を行っている。日本では拳銃、覚醒剤や大麻などの不正薬物、知的財産侵害物品、ワシントン条約で取引が禁止されている動植物等を国内に持ち込むことが禁止されている。税関ではこのような社会悪物品の取締まりを水際で行っているのである。近年、入国旅客数がますます増加していることに伴い、社会悪物品の流入の危険が高まり、密輸入の手口がますます巧妙化している。このような現状の中、入国する大勢の旅客の中から密輸入を企てるほんの一握りの旅客を探し出すため、自らの知識と経験を最大限活用して検査の必要性を判断しているのだ。水野氏も社会悪物品の流入を防ぐためには、密輸入の手口や実際にあった摘発事例の情報を地道に集積することが大切だとおっしゃっていた。
また、2020年に東京オリンピック・パラリンピックが控えていることから、テロに対する取締まりもますます厳しくなり、税関の安全対策がより重要になってきている。水野氏は、旅具取締部門では、税関が掲げる3つの使命の1つである「安全・安心な社会の実現」という使命を強く感じられると教えて下さった。テロを未然に防ぐためには、より一層強い責任感と使命感を持って働かなければならない。実際に現場に立つと、「自分が社会の安全を守っている」という思いがやりがいに繋がるそうだ。

「部署異動」によって得られる、税関職員としての経験値

 通関、貨物の審査、不正薬物の摘発など税関職員の仕事は多岐にわたる。そのため様々な知識を身に付け、日々スキルアップしていくことが求められる。それを支えているのは「部署異動」だという。このことについて、2007年愛知大学 国際コミュニケーション学部卒業生の岩田望恵氏(以下、岩田氏)にお話を伺った。岩田氏によると、税関では2~3年で、早ければなんと1年で部署異動があるそうだ。岩田氏自身も中部空港税関支署で2年間勤務した後、静岡県の清水税関支署へ異動となったという。いろいろな部署で勤務し、違う側面から業務を見ることで、また元の部署に戻ってきたときに視野が広がるのである。例えば手荷物検査を行う「旅具取締部門」で勤務した後、麻薬などの密輸入事件などを調査する「審理部門」で勤務する。そうすると、麻薬や覚醒剤の密輸入を企てる人物の挙動を理解することができる。そしてまた「旅具取締部門」に戻った際にその知識と経験を活かして、そういった旅客を効率よく見つけ出すことができるようになるのだ。
「いくつか部署異動を経験して一番やりがいを感じた業務は、広報です」と岩田氏は語ってくださった。その理由は「税関についての知識をより深められるから」だという。広報は、他の部署の人と関わることが多いため「こんな仕事があるんだ」と初めて知る業務もあったという。さらに中高生にむけて薬物講座を開いたり、薬物の摘発があった際に報道発表に携わったりするなど多様な業務をこなすことで、税関についてより理解することができた、という。「とても貴重な経験だった」と話してくださった。

語学は不安要素ではない

 税関職員は国の玄関口となる空港や港で働いている。つまり海外との関わりを持つ最前線で働いているということであり、語学が堪能でないといけないというイメージを持ちがちである。とりわけ空港では、英語が必須だと謳われる他の職業もあるため、より語学に堪能でないといけないというイメージが強い。しかし、実は税関では必ずしも高い語学力が必要とされていない。なぜなら税関特有の研修制度と現場のサポートがあるからだ。研修では税関で働くにあたって必要とされる知識や技能を身に付けるのが目的とされ、語学研修に関しては共通語の英語だけではなく、日本の近隣の国の言語である韓国語、中国語、ロシア語を学ぶ。また、資料等に使われる英語の専門用語についてもここで学ぶ。現場でのサポートについては、典型的な質問が英語で書かれた質問事項一覧表というものがある。咄嗟に英語が出てこなくても、これを参考にすることで業務をある程度こなすことができるのだ。しかし、これだけでは対応出来ないケースもある。例えば、不正薬物を持ち込んでいる可能性があると疑い、外国籍旅行客と会話をし、相手の言い分の真偽を確かめないといけない場合である。このような時にはどうしても高い語学力が必要とされるが、契約した通訳もいるため、語学に自信がなくても不安に感じる必要はない。語学力は税関職員を目指す者なら一回は不安に思うことだろう。しかし、税関では上記で述べたように複数のサポートがあるため心配することはない。またサポートを受け、それを経験として自分の糧とし、現場で働くことで次第に身に付いていくと取材させていただいた方々はおっしゃっていた。

税関職員の隠れた魅力

column 発見

 多くの人が「空港で働く人」と聞いたら、花形と言われるパイロットや客室乗務員、またはグランドスタッフなどを思い浮かべるのではないだろうか。しかし、税関も空港内で重要な役割を果たしている。その結果、空港内に留まらず、国の安全をも守っているのである。例えば、2019年に大いに盛り上がりを見せたラグビーワールドカップ日本大会で、テロのような悪質な事件が起こらず、安全に開催された背景には税関による地道な努力がある。これだけ聞くと重い責任が生じる、税関職員の方に対して、どこか堅苦しそうなイメージを持ってしまうかもしれない。だが、実際に税関職員の方々のお話を聞くと、そのようなイメージはいい意味で感じなかった。我々の取材にも前向きに応じて頂き、堅苦しいというイメージとは離れた、むしろリラックスしている印象を持った。現場に立つ時は強い責任感を持った真剣な表情で、そうでない時は力を抜いて。そのギャップが税関職員の隠れた魅力なのではないかと感じた。

チーム紹介

井戸 麻菜実(経営学部 2年)
竹内 利奈(国際コミュニケーション学部 2年)
榎本 妃那(国際コミュニケーション学部 2年)
犬飼 拓真(経済学部 1年)

※本記事は2019年12月現在の内容となります。