「部署異動」によって得られる、税関職員としての経験値
通関、貨物の審査、不正薬物の摘発など税関職員の仕事は多岐にわたる。そのため様々な知識を身に付け、日々スキルアップしていくことが求められる。それを支えているのは「部署異動」だという。このことについて、2007年愛知大学 国際コミュニケーション学部卒業生の岩田望恵氏(以下、岩田氏)にお話を伺った。岩田氏によると、税関では2~3年で、早ければなんと1年で部署異動があるそうだ。岩田氏自身も中部空港税関支署で2年間勤務した後、静岡県の清水税関支署へ異動となったという。いろいろな部署で勤務し、違う側面から業務を見ることで、また元の部署に戻ってきたときに視野が広がるのである。例えば手荷物検査を行う「旅具取締部門」で勤務した後、麻薬などの密輸入事件などを調査する「審理部門」で勤務する。そうすると、麻薬や覚醒剤の密輸入を企てる人物の挙動を理解することができる。そしてまた「旅具取締部門」に戻った際にその知識と経験を活かして、そういった旅客を効率よく見つけ出すことができるようになるのだ。
「いくつか部署異動を経験して一番やりがいを感じた業務は、広報です」と岩田氏は語ってくださった。その理由は「税関についての知識をより深められるから」だという。広報は、他の部署の人と関わることが多いため「こんな仕事があるんだ」と初めて知る業務もあったという。さらに中高生にむけて薬物講座を開いたり、薬物の摘発があった際に報道発表に携わったりするなど多様な業務をこなすことで、税関についてより理解することができた、という。「とても貴重な経験だった」と話してくださった。
語学は不安要素ではない
税関職員は国の玄関口となる空港や港で働いている。つまり海外との関わりを持つ最前線で働いているということであり、語学が堪能でないといけないというイメージを持ちがちである。とりわけ空港では、英語が必須だと謳われる他の職業もあるため、より語学に堪能でないといけないというイメージが強い。しかし、実は税関では必ずしも高い語学力が必要とされていない。なぜなら税関特有の研修制度と現場のサポートがあるからだ。研修では税関で働くにあたって必要とされる知識や技能を身に付けるのが目的とされ、語学研修に関しては共通語の英語だけではなく、日本の近隣の国の言語である韓国語、中国語、ロシア語を学ぶ。また、資料等に使われる英語の専門用語についてもここで学ぶ。現場でのサポートについては、典型的な質問が英語で書かれた質問事項一覧表というものがある。咄嗟に英語が出てこなくても、これを参考にすることで業務をある程度こなすことができるのだ。しかし、これだけでは対応出来ないケースもある。例えば、不正薬物を持ち込んでいる可能性があると疑い、外国籍旅行客と会話をし、相手の言い分の真偽を確かめないといけない場合である。このような時にはどうしても高い語学力が必要とされるが、契約した通訳もいるため、語学に自信がなくても不安に感じる必要はない。語学力は税関職員を目指す者なら一回は不安に思うことだろう。しかし、税関では上記で述べたように複数のサポートがあるため心配することはない。またサポートを受け、それを経験として自分の糧とし、現場で働くことで次第に身に付いていくと取材させていただいた方々はおっしゃっていた。