愛知大学法科大学院における生成AI利用に関する留意事項

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 愛知大学法科大学院(法務研究科)では、教授会を中心に、近年利用が進んでいる生成AIについて、法科大学院生向けにこのような留意事項を作成し、周知しております。

愛知大学法科大学院における生成AI利用に関する留意事項
1.はじめに

 近時、メディア等で取り上げられることの多くなってきた「生成AI(Generative Artificial Intelligence)」については、国家や国際間のレベルでもその有用性や問題点について議論されてきており、とりわけ教育への影響について懸念されています。そこで、愛知大学が大学全体として具体的な対応を検討していくことと併せて、愛知大学法科大学院としても生成AIの動向を注視しつつ、必要に応じて適切に対応する必要があると考えています。

 1.1.生成AIとは
 生成AIとは、人工知能(AI)研究開発から生まれてきた一つの技術です。この技術も日々進化しているAIの一進化形で、今後もっと修正が加わりより賢くなると予測されます。
 その仕組みは、人間の作った大量の文字や画像データを基としてAIが機械学習することで、AI自体が、プログラムにより、画像・文章・音楽など多様な領域で独自に新しいコンテンツを生み出すことができるというものです。生成AIは、これまで人類が創作物として生み出してきた文章や絵画を人間に代わってAIが生成するプログラムを指しています。この生成AIプログラムの進化が部分的にですが人知を超えることとなり、これまでにない対応が大学教育の場面でも求められることになりました。そこで、愛知大学法科大学院もこれまで培ってきた法曹養成教育を更に高めるためにガイドラインを置くことが必要と考えることとなりました。

 1.2.情報の不正確性
 人間よりも賢いAIと言われますが、実態は人間ほどの広汎な知識を持っているわけではありません。たとえば、生成AIは、数字の計算が苦手であるとか、AI自体が学習したデータの組み合わせ以外のアウトプットを出力できないといった限界を持っています。よって、生成AIが出力するアウトプットは常に正しいとは限りませんので、うまく使いこなすことが求められます。
 たとえば、もう既にみなさんがお使いのGoogleに代表されるような検索エンジンを考えてください。検索エンジンは、検索キーワードをうまく組み合わせて入力すると、より正確な情報が出力されます。しかし回答されるのは、常に検索データに入っている情報だけです。それ以上のものは答えとして返ってきません。よって現状の生成AIも同様で、常に正答を返してくれることはありません。さらに生成AIは、一見すると正しく見えるもっともらしいアウトプットを出してくることを知っておく必要があります。

2.留意事項

 2.1.あなた自身への配慮
 大学院における学修は院生が主体的に学ぶことが本質であり、生成 AIが出力した結果をそのまま課題の解答に用いるといった学ぶ者自らの手によらずに成果物を作成することは、みなさんの自身の学びを深めることに繋がりません。この結果、安易に生成AIに頼ることにより自ら考えて学ぶ機会を失っていく可能性のあることを留意する必要があります。毎回出される起案課題を生成AIに行わせることは、あなたに求められている学習機会を自ら放棄してしまうことであることを留意する必要があります。
 また一方で、この生成AIの利用が有用である場面も考える必要があります。たとえば、他の考え方を知るという意味では推奨されます。さまざまな課題に取り組むときに、自分だけの考えではなく別の視点からの考え方を知り、より深い理解度を得るという意味では、とても役立つものです。
 愛知大学法科大学院では院生が自ら考える力を伸ばす教育に力を入れています。これからの法曹は、正解のない問題に立ち向かう多角的な視野が求められます。生成AIに過度に頼り過ぎることなく、うまく利用して自ら考える学習に勉めていただきたいと考えています。

 2.2.社会への配慮
 生成AIがもたらす負の側面についても知る必要があります。それは我々の住む社会への影響です。「生成AIが創り出す知的創造物をどう扱うか」という問題です。それには以下の2点からの配慮が必要となります。

 2.2.1.知的財産権侵害
 生成AIはこれまで人類が創作した知的財産を基データにして出来上がっています。よって、著作権といった知的財産権への侵害が予測されます。たとえば、あなたが生成AIに作らせた文章は既に他人の作った著作物を学習データとしていますから、知らない間に著作権侵害を侵してしまうというリスクがあります。また、あなたが生成AIに作らせた画像が、他人の画像と酷似していたり他社の商標と瓜二つになってしまったりするリスクもあります。これらに対する対処方法としては、社会的に公表する場面ではこのリスクをよく考え情報発信時に慎重になること、併せて著作権といった知的財産法を適確に学ぶこと及び今後出てくると思われる裁判例などに注視しておく必要があります。

 2.2.2.プライバシー侵害
 もう一つの側面は、個人情報やプライバシーといった機密情報が漏洩してしまうリスクです。個人情報保護法によって守られる個人情報のみならず、生成AIが生み出すアウトプットには、プライバシー侵害となることが予測されます。つまり生成AIは過去に作成されたデータを基としますから、そこに既に個人情報やプライバシー情報が含まれている可能性があります。また、あなたが生成AI操作時にプロンプトとして入力したデータが生成AIの新たなデータとして入ってしまい情報が漏洩するリスクもあります。
 このような場面でも対外的に公表する場合は、生成AIのアウトプットを慎重にチェックする必要がありますし、むやみに個人情報を生成AIに入力するのは好ましい事ではありません。

3.今後について
 AIは今後も進化し続けます。愛知大学法科大学院では組織として望ましい利用方法を模索していくこと重要であると考えています。今後の法科大学院教育にもかかわることですが、従来型の知識を単に暗記させる形での教育から、自ら考える形での教育にシフトしてくことが必要とも考えています。これからの法曹に求められるのは、単なる知識の提供に留まらず、人と人を繋ぐ創造的な法的サービスを提供できる能力です。
 今後も皆さんと情報共有すると同時に、技術の進展や社会情勢に対応した適切な対応が取れるように継続して取り組んでまいります。

参考URL
・文部科学省「大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて」
 https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2023/mext_01260.html

・人工知能学会倫理委員会「人工知能学会としての大規模生成モデルに対してのメッセージ」
 https://www.ai-gakkai.or.jp/ai-elsi/archives/info/人工知能学会としての大規模生成モデルに対して

以 上