5月の天津は本格的な夏を迎えた。日本より1ヵ月ほど早い感覚だ。青年節(5月4日)以降は最高気温が25℃以上の日が続き、うち30℃以上の真夏日は11日間もあった。もっとも天津の暑さは空気が乾燥しているせいか、東海エリアのまとわりつくような暑さとは違い、さらっとしている。日差しが強い日でも日陰に入れば、涼やかで心地よい。
現プロも早いもので、5月末でちょうど4分の3(85日間)が経過した。学生たちは6月10日に迫った中国語検定試験(HSK:漢語水平考試)に向けて、中国語の取り組みにも一層の拍車がかかる。こうした中、5月は学生が楽しみにしていた運動会(4月開催が雨天のため5月に延期)と教学実践(黄涯関万里の長城)が行われた。
◆初の雨天延期となった運動会
現プロでは毎年恒例となっている南開大学漢語言文化学院主催の留学生を対象とした「運動会」。今年度は留学生だけでなく、漢語言文化学院本科に通う現役学部生も加えた「中外(中国と外国)運動会」にグレードアップして開催された。学部生のなかには、ダブルディグリー・プログラム(注)で南開大学留学中の本学学生の姿もみられた。
運動会は当初、4月12日(金)に開催されるはずだった。学生たちは運動会での一体感を演出するため、班別にユニホームを用意した。各班の班長は天津市内の衣料品店に出向き、商品と価格を見比べながら購入。1着上下で70元弱(1元は約17円)。「結構、着心地がいい」らしく、今も普段着として着用している学生もいる。しかし、その運動会は雨模様の天気のため「過去の運動会で初めて」(南開大学関係者)の延期を余儀なくされた。
会場となるグラウンドの再手配、授業の調整等は思いのほか大変で、1ヵ月後の5月12日(土)にようやく実施の運びとなった。運動会前日の天気予報は「雷を伴うにわか雨」。上述のとおり夏らしい天気が続く中での悪天候の予報に開催を危ぶむ声も。しかし、当日は予報が運よく外れ、雲が多いながらも夏の日差しものぞくまずまずの天気となった(ちなみに、夕刻になると黒い雲が立ち込め、雷を伴う激しい雨に見舞われた)。
この運動会には、5人6脚(写真1)、PK合戦、走り幅跳び、リレーなどのほか、日本ではお目にかからない中国らしい種目「毽子(ジエンズ)」や「投壺」(写真2)があった。「投壺」もともとは漢の時代に流行した上流階層の宴席における余興だったという。50センチほどの矢を少し離れたところにある細長い壺に投げ入れ、多く入れた者が勝ち、負けた者は酒杯を空けるという遊びだ。この投壺、実際にやってみるとなかなか難しい。矢が長いうえ、壺までの距離が短いため、放物線を描くように投げないとうまく壺に入らない。
約3時間にわたった熱戦の最終種目はチーム対抗リレー。各班の俊足が選ばれ、大いに盛り上がった。運動会では、仲間同士の結束、連帯が強まっただけでなく、他の留学生と交流できる一幕もあり、学生にとって思い出に残るイベントになったようだ。
(注)ダブルディグリー・プログラムは、5年間で本学と南開大学の学位取得ができるプログラム。2014年より開始し5年目を迎えた。毎年2~3名を選抜。対象学生は2年間の留学で南開大学の学位に必要な単位を修得し、さらに本学での卒業要件を満たした場合、双方の大学の卒業認定と学位を取得できる。
(写真1:好勝負。どちらが勝つか?)
(写真2:残念!「外れ」。再来一次!)
◆中国語検定「HSK」合格に向けて
5月の連休明け、6月10日(日)に実施される「HSK(漢語水平考試)」の出願が締め切られた。学生は現プロ期間中、単位認定の対象となる「単元テスト」のほか、自身のキャリア形成にもつながるHSKにも挑戦する。HSKは中国政府認定の資格で1級から6級(最上級)の6つのレベルがある。試験は聞き取り、読解、作文からなり、各100点の300点満点で、180点以上が合格とみなされる。今年度の現プロでは昨年度よりレベルを1級上げ、「全員5級以上を受験・合格」を目標に掲げている。ちなみに4級は1,200字、5級は2,500字程度の常用単語と文法知識の習得者が対象。5級は「中国語の新聞や雑誌が読めるだけでなく、中国の映画やテレビも観賞でき、さらに、中国語でスピーチすることができる」ことが求められている。
また、HSKは社会人になり、中国で働くうえでも有利な資格である。2017年4月に改正・施行された新たな外国人就労許可制度では、訪中して就労する外国人は A・B・Cの いずれかに分類され、 その分類基準に応じてそれぞれ奨励類・制御類・制限類としての扱いを受け、 相応の行政対応がなされる。分類基準とともにポイント加算制も導入され、一般的な駐在員が属するB分類に該当するには、中国での所得年収、業務経験歴、学歴など各項目の合計で60ポイント以上が要求される。この項目のひとつにHSK資格があり、「5級以上」は10点、「4級」は8点の加算となる。HSKは今後、中国ビジネスに取り組むグローバル企業にとって、無視できない資格になるだろう。
学生たちのHSK合格をサポートすべく、南開大学の中国語担当の先生方も5級、6級別のHSK補講クラスを開講(5回)してもらっている。高い目標をクリアするには、これまでにない格別の努力が求められるが、南開大学での現プロ留学という最高の学習環境をフルに活かし、満足いく成果が得られることを願って止まない。
(写真3:授業はすべて中国語で行われる)
◆教学実践――黄崖関長城を見学
現プロでは、南開大学構内で学ぶ座学・文化講座・体育の授業だけでなく、構外に出て中国の歴史、文化に直接触れる実践活動(教学実践)も実施している。今年度は5月18日(金)に例年好評を博している万里の長城(天津市薊県の黄崖関長城)を見学した。以下、学生たちのレポートをもとにその様子を紹介したい(筆者は愛大会館で留守番だったため)。
8時過ぎ、大型バス4台で愛大会館を出発し、11時半には現地に到着。朝方は今にも雨が降り出しそうな空模様だったが、昼までには雲は消え、夏らしい陽気となった。まずは付近のレストランで腹ごしらえの昼食をいただき、いよいよ登城。
学生たちは、ピクニック気分で歌を口ずさみながら意気揚々と石畳の階段道を登り始めた(写真4)。しかし、この石段、登ってみるとわかるのだが段差がかなり高く、不規則なうえ長い。頂上付近では道幅も狭くなり、急勾配で手を使わなければ登れない場所もあった。昼下がりの長城は30℃近くまで上がったが、炎天下の道中には逃げ場はない。想像以上の過酷さに途中で登頂を諦め、石段にしゃがみ込む女子学生も。体力には自信のある男子学生でも「大学生になって初めて息切れした」「段差が高いところでは、足を持ち上げるのに苦労した」と漏らすほどだ。それでも、多くの学生は最後の難関「黄崖天梯」(302段)を登り切り、1時間ほどで頂上にたどり着いた(写真5)。しかし、下りは「もっとえらい(しんどい)」(女子学生)。18時半ごろ、愛大会館で戻ってきた学生たちに「どうだった?楽しめた?」と尋ねると、異口同音に「疲れた~」を連発していた。
(写真4:初めての長城、さぁ登るぞ!)
(写真5:頂上に着き、達成感に浸る2人。)
2018年度現地プログラム(中国)引率者 阿部宏忠